Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル 番外編

  “十五夜、お月様vv”
 


あのね?あのね? 今夜はお月見なんだってvv
ちゅーちゅーの めーげつなんだってvv
ねぇ、めーげつってなぁに?


「それも言うなら、中秋の名月だ。」
「あやや。」

相変わらずに舌が回り切らないおチビさん。
大きな壷へススキや野菊を生けておいでのお館様からの訂正へ、
あれれぇ?と小首を傾げて見せる姿も愛らしい。
秋の宵を迎えた南東のお空には、真珠色の真ん丸な望月が昇っており、
広間の前のお庭では、
秋の虫たちがコロコロ・リーリーと涼しい声で鳴いていて。

「お芋とお団子ですよ〜vv」
「お団子vv」

庫裏の方からぱたぱたと、重脚つきのお膳を重ねて抱えて来たは、
相変わらずのくせっ毛が頭上でひょこひょこと跳ねている、
童顔の愛らしさからも年齢不詳の、おチビな書生くんと。

「澄酒も持って来たが、ほどほどにしとけよ? お前。」

賄いのおばさまに言われての、
瓶子
(へいし)ではなく、胴の太い一升徳利を下げて来たのは黒髪の侍従殿。
おや、甘い濁り酒しか飲めぬ奴から言われとうはねぇなと、
さっそく揶揄する金髪痩躯の御主からの憎まれへ、

 「あほ。心配して言ってんだろが。」

何の捻りもなくの あっさり言っちゃう、
そんな正直なところが、野暮ではあるが…それでもあのね?
人の言質の裏の裏まで読まねばならない、
伏魔殿のような宮中でお務めの蛭魔にしてみれば、
そんな判りやすさこそ心地よくてのまんざらでもなくて。

 「おやかま様?」

お顔赤い、と。
小さな和子から小首傾げて見上げられてる、不覚を取っていたりして。

 「さあ、月見だ、月見だ。」

誤魔化したわね。
(苦笑)
何せ、秋の宵を満喫出来るあれやこれやには事欠かぬ、
あちこちが天然自然のまんまなあばら家屋敷。
静かだわ、虫の声はどこからでも聞こえてくるわ、
ついでに言えば、月の光だってどこの隙間からでも拝めるわ。

 “余計なお世話だ。”
(笑)

とはいえ、月を眺めるだけという風流な宴、
このお歴々には…相性が悪いというか、間が保たないというか。

 “いつぞやなんて、間諜を燻り出すのが目的ってのだったしな。”

そいや、そんなお月見もやりましたな。
意味さえ判らぬお子様がいる以上、
大人しく月を見てほけらとしているだけの催しなんて、
小半時も保てばいい方だろう。

 「おちゅきみーvv ちゅくねーvv」

案の定。小さな天狐の皇子様におかれては、
もしかして先々で仕える先かもしれない月夜見様より、
山鳥のひき肉で作っていただいた、
今宵の御馳走、つくねの方が嬉しいらしい。
串にお団子のように3つずつ通されたのを、
小さなお手々で掲げ持ち。
畏れ多くもお館様のお膝に陣取って、
嬉しい嬉しいという鼻歌まじり、
あぐあぐと頬張る様子は確かに愛らしく。
里芋の煮付けに、田楽に、アナゴの焼いたの、ブリの照り焼き。
京の都では海の魚なぞ なかなか手に入らないものだけれど、
そこは伝手に事欠かぬお館様なので、
甘辛な味の染みた厚切りのブリなども、
ごくごく自然に食べつけていたりするご一家で。
まだ少し若いススキは、
くうちゃんのお尻尾のようなさらさらの穂が、
風にそよいでゆらゆらし、月光を受けて銀色に光る。

 お月様は遠い。
 それよか、
 手の届きそうなとこにある ススキのゆらゆらの方が好き。

御馳走を食べてた手が止まり、
じぃとススキの穂を見つめている仔ギツネさんに気がついて。
どした、眠いかとお館様がお声をかければ。
ん〜んとかぶりを振って、お耳の立った頭が左右に揺れる。
平気とお返事したけれど、ホントはちょっぴりおネムなくうちゃん。
しばらくすると、うとうとと舟を漕ぎはじめ。
大人の皆様に“おやちゅみなしゃい”することとなる。
明日のボクが今日よりも少し、大きくなるための“おやすみなさい”。
そんなボクを、お陽様と同じくらい、
やさしく見守ってくださってるお月様だと気づくのは、
もうちょこっと先のお話みたいです。








  おまけ


 「くうちゃんて、3つか4つくらいに見えますが、
  ホントはまだ1歳と半分くらいなんですよね?」

煌月を見上げていたセナくんがふと、そんなことを言い出して。

「そうなるかな。」
「それにしちゃあ、口が達者だよな。」
「出たぞ、親ばか。」
「何だよ、ホントのことじゃねぇか。」

確かにまま、そんな年頃のお子様はまだ、
あんなにも色々と語彙を繰り出してのお話は出来なかろう。
妙に父性の強い葉柱が、
我が誉れのように“えっへん”と鼻高々になっているけれど、

「舌っ足らずな話方は確かにかわいらしいんですけど。」
「何だ、どした。」

何か気になるのかと蛭魔が訊けば、
板の間に小さな指先を這わせて のの字を書きつつ、

「進さんをいつまでも“ちゅきがみ”って呼んでるのがちょっと。」
「かわいいじゃねぇか。」

つか、あいつをそんなして呼ぶようなほど、
姿を現しての一緒に遊んでたりするのか、お前ら。
一応は守護神だってのに、子守の手伝いさす方が問題なくないかと、
蛭魔が目許を眇めていると、

《 あるじ。》

どこからともなく、男性の声がして、

「進さん?」
《 俺の呼び方はあれでいい。》

おやや? お話を聞いてらした様子です。
それにしたって、そのままでいいとはまた、
どういう納得あってのことでしょか?
細かいことにはこだわらないということか、
それとも…相手が天狐様だから、でしょうか?

「でも、ボクとしては。」

大人げないかもしれないが、
自分の大切な人、敬愛してもいる対象を
あんな小さな子供から軽んじられているような気がして、落ち着かないらしく。
う〜と珍しくも憤懣を見せているセナくんの、
そんな心情が判らないでもないらしいのが、
邪妖で式神の葉柱だというのもどうかという世界だったが、

「…なあ、進よ。」
《 なんだ。》
「そうと言い切るのは、そんな瑣末なことへこだわるなという意味か?」

セナもまた、先々では蛭魔のような優秀な陰陽師になる身。
繊細なのは性分かららしいが、それでも。
もっと大きな度量を持たねばと言いたい彼なのかなと、訊いてみたところが、

《 ………。》

おやや、今度は返事がない。
その代わりのように、

「〜〜〜〜〜。」

金の髪した誰かさんが、何か知ってでもいるものか、
そっぽを向きつつも口元をたわませておいで。

「蛭魔?」
「いやなに。確かに、あれはあのまま放っておいて、
 舌が回るようになるまで待ってやった方がいいと思うぜ?」
「どういうことですよう。」

  ―― だから。
      俺もな気になってたもんで、
      ちゃんと呼んでみなと言ったことがあるのよ。

そしたら…と、笑いの発作に襲われたらしい蛭魔に代わり、

《 ちんちゃん、と。呼ばれた。》
「………っ☆」

俺はどう呼ばれようが構わぬのだが、
蛭魔が、そのたびに自分の笑いが止まらぬようになろうからやめてくれと…。
進さんのお声がそんな風に紡いだのを聞いて、

「…お館様。」
「何だよ。俺はそっちで呼ばせんなって言ってやったんだぜ?」

様はちゃんと言えるのに“しん”や“さん”はむつかしいんだろか。
つか、誰かさんは あぎょんと呼び捨てなのによ。
そうか、進は“さんづけ”なんだな、と。
何だか“お月見”とは全然の全く関係のない話へ逸れてってますが。

 「俺らに月の何を愛でろと言うのだ。」

そんなことで胸を張らない、お館様。
(苦笑)
まったくもって、やっぱり相変わらずな方々なようでございます。





  〜 どさくさ・どっとはらい 〜  07.9.25.


  *何か、本館の某ぱぴぃみたいな出だしになっとりますな。
   くうちゃんといい、カイくんといい、
   幼児キャラが天下取りまくりのサイトです。
(笑)

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